2022年11月に設立が発表された次世代半導体の国産化を目指すラピダスについては賛否両論が飛び交っています。
この記事ではそんなラピダスについて、概要と設立の経緯、主要な役員について徹底解説します。是非とも最後までご覧ください。
【プロフィール】
- 上場企業の現役半導体プロセスエンジニア
(経験10年以上) - 多くの材料メーカーや生産委託先企業との業務経験あり
- 著書を出版しました
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- 特にラピダスについて調べたい
動画で解説:ラピダスについて
ラピダスとは次世代半導体の国産化を目指す新会社
ラピダスは正式名称はRapidus株式会社で、2022年8月に設立され、11月に記者会見が行われて大々的に報じられました。
本社所在地は東京都千代田区麴町で上場はされていません。
事業内容は、下記のようになっています。
- 半導体素子、集積回路等の電子部品の研究、開発、設計、製造及び販売
- 環境に配慮した省エネルギーの半導体及び半導体製造技術の研究、開発
- 半導体産業を担う人材の育成、開発
これだけを読みますといわゆるIDM型企業のようですが、メインとなるのは次世代半導体の量産製造拠点を設けて製造をすることです。ファウンドリ企業になると考えられますが、この辺りを含めてまだまだ未知数です。
次世代半導体とはより微細な回路線幅の半導体
それでは次に次世代半導体とは何かという点について確認しておきましょう。
まず大前提として半導体はWSTS(World Semiconductor Trade Statistics:世界半導体市場統計)の分類によりますと以下の7つに分類されます。
- IC(集積回路)
マイクロ
ロジック
アナログ
メモリ - 非IC(集積回路以外)
オプト
センサ
ディスクリート
次世代半導体と言われる半導体はこの中ではマイクロやロジックと言われる半導体になります。
半導体では回路線幅の微細化が性能向上を図る最大の技術的なポイントです。
トランジスタと呼ばれる半導体素子のサイズを小さくすることによって高集積化や高機能化を実現することができます。
半導体業界では有名な「ムーアの法則」という経験則があります。
ムーアの法則とは、
半導体の製造が18ヶ月で2倍になるというもので、1965年にインテル共同創業者の一人であるゴードン・ムーアが唱えた法則です。
プロセッサをつくるインテルではムーアの法則に則る形で(ムーアの法則が実現するように)、これまで微細化(高集積化)を達成してきました。
2022年現在の最新チップでは、アップルが設計したM2チップがTSMCの5nmプロセスを使い、およそ200億個ものトランジスタを1チップに集積しています。
つまり、次世代半導体とはより微細な回路線幅の半導体ということです。
ラピダス設立の経緯
ここからはラピダスが設立された経緯をみていきましょう。
経済産業省が発表した資料によりますと、現在世界中で半導体開発が加速しており、インテルを有する米国、サムスン電子を有する韓国、TSMCを有する台湾がその先頭を走っています。
その一方で日本はといいますと、過去には世界の半導体市場シェアの過半を占めていた時期(1980年代後半)がありましたが、微細化の開発は止まっており世界からは10年以上遅れているのが現実です。
最先端プロセスではトランジスタの構造がFin型と呼ばれるものからGAA(Gate-All-Around)型と呼ばれる構造への転換点であり、量産するためには高度な生産技術が必要になります。
半導体不足に起因して半導体の重要性が認識されている昨今、特に米中間の対立に端を発して、台湾に集中している先端半導体の製造拠点に対する地政学的なリスクが顕在化しています。
そのため日本は米国と連携して半導体の研究開発をすることで政治的な合意がなされました。
次世代半導体を国産化するために設立された研究開発機関が日本版NSTCと呼ばれるLSTC(Leading-edge Semiconductor Technology Center:技術研究組合最先端半導体技術センター)であり、将来的な量産製造拠点として設立されたのが「ラピダス」という位置付けです。
ラピダスの主要役員
このラピダスを運営する主要役員の方は、取締役会長に就任された東哲郎氏と代表取締役社長に就任されてた小池淳義氏です。
東氏は半導体製造装置メーカー大手の東京エレクトロンで社長と会長を歴任された方です。
小池氏は元は日立製作所のエンジニアで、半導体グループの生産技術開発本部の本部長まで務めて、日立製作所とUMCが合弁で設立したトレセンティテクノロジーズの社長、ウエスタンデジタルジャパンの社長を務められた方です。
お二人とも国内外を問わず半導体業界に広い人脈を持っていることは想像に難くありません。
ラピダスの出資企業は日本を代表する8社
ラピダスへの出資が決まっているのは日本を代表する以下の8社です。
- キオクシア
- ソニーグループ
- ソフトバンク
- デンソー
- トヨタ自動車
- NEC
- NTT
- 三菱UFJ銀行
半導体関連企業だけではなく、自動車業界や通信業界、そして銀行も出資をしています。
現在の出資金総額は73億円となっています。今後出資額や他に出資する企業が出てくるのかにも注目していきたいです。
経済産業省が描く今後の計画
経済産業省が描いている今後の計画としては、まず11/11に発表された次世代半導体の研究開発プロジェクト(開発費に700億円)の採択先をラピダスとしています。
ラピダスではこれを活用して日米連携による2nm世代半導体の研究開発に取り組むことになります。12月に入りimecやIBMとの協業が発表されましたのは、この流れに基づいて以前から交渉が行われていた証左と言えます。
2023年以降、量産に向けたプロセス開発を行い、5年後である202年頃に2nm世代のファウンドリを日本国内で実現することを見込んでいます。
ただし2022年末時点では日本のどこに工場を作るなどの具体的な計画はまだ分かりません。この辺りは今後の最重要注目点と言えるでしょう。
まとめに代えて:ラピダスは果たして成功するのか
最後はまとめに代えて、ラピダスが果たして成功するのかについて考えてみたいと思います。
さまざまな方が意見を述べられており、賛否両論あります。もちろん簡単に成功すると考えている方は皆無であり、非常に厳しい戦いになることは間違いないです。
多くの課題が山積みになっています。パッと思いつくだけでも、財源や人材、採算性の合う製品有無などあげればキリがありません。
とは言え、このまま手をこまねいて何もしなければ世界の半導体産業における日本の存在感は今後ますます低下することは避けられません。
そのため、何もしないよりははるかにマシであり、やるからにはある程度の結果を期待したいですし、半導体業界に携わる一人として応援していきたいと考えています。