2024年7月に半導体業界で生じたニュースを10本厳選してご紹介します。
動画で説明:半導体業界ニュース2024年7月号
2024年7月末時点の半導体市場と株式市場推移
各ニュース記事:半導体業界ニュース2024年7月号
熊本大学、陽明交通大学と半導体分野の連携強化に関する補遺協定締結
熊本大学は7/1、台湾の国立陽明交通大学と半導体ナノテクノロジー分野での教育及び研究強化に関する補遺協定を6/28に締結したことを発表しました。
補遺とは漏れたりした内容を後から補うという意味で、両大学はすでに大学間交流協定を締結しており、今回の補遺協定は、特に半導体ナノテクノロジー分野における互いの学術的強みを共有し、協力していくことを目的としています。
具体的には、下記の様な取り組みを実施する模様です。
- 共同教育プログラムの開発
- 高度研究人材の育成に向けた取組みの実施等の協力を強化
- 国立陽明交通大学内に熊本大学ラボの設置を検討
先月の北海道大学もそうですが、国内の大学と台湾を中心として海外との大学との連携が進んでいます。半導体関連人材の育成には長い年月が必要ですが、各大学のみではなく様々な形で協力し合うことで強化されることを願います。
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熊本大学:プレスリリース(7/1)
ルネサス、アルティウム買収に向けた規制当局の審査が終了
ルネサスエレクトロニクスは7/2、2024年2月に公表していたアルティウム社を買収することに関し、対米外国投資委員会から調査の完了と安全保障上の問題がない旨の通知を7/1付けで受領したことを発表しました。
これによって今回の買収実行に向けて必要となる、オーストラリア、ドイツ、トルコ、米国の規制当局の承認を全て取得したとしています。
今後は7/12に開催されるアルティウム社の株主総会における承認などを経て、8/1に完了する見込みです。
今回の買収は総額でおよそ9000億円規模であり、複数の企業買収を行ってきたルネサスにとっても過去最高の金額規模の買収です。当初、2024年下半期中に完了する予定としていましたので予定通りに事が進んでいる模様です。今回の買収を経て、ルネサスの更なる成長に期待をしたいものです。
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ルネサスエレクトロニクス:プレスリリース(7/2)
ローム、子会社のSiCrystalがSiCウエハ生産能力拡大のため新棟を起工
ロームの子会社でSiCウエハを手掛けるドイツのSiCrystal GmbH は7/4、SiCウエハ製造の新棟起工式を実施したことを発表しました。
新棟はドイツ ニュルンベルクの北東部、既存工場に隣接したエリアに増設されます。2026年初旬に完成予定で、既存の建屋を含めたSiCrystalの総生産能力は、2027年には2024年の約3倍になるとしています。
今回の生産能力の追加により、同社は市場での地位を強化し、半導体業界の技術開発に重要な貢献をしていくと述べています。
ロームは他のデバイスメーカーと異なり、SiCrystalというウエハ製造のメーカーを持っています。そのため材料から一貫して製造できる点が強みとなっています。今回はそのウエハ製造の生産能力を高めて市場シェア拡大を進める模様です。
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SiCrystal:プレスリリース(7/4)
レゾナック、日米10社による半導体パッケージコンソーシアムを設立
レゾナックは7/8、次世代半導体パッケージ分野において、日米の材料・装置等の企業10社によるコンソーシアム「US-JOINT」を米国・シリコンバレーに設立すると発表しました。
半導体の製造装置・材料メーカーの枠を超えて日本で進めてきた半導体パッケージ技術開発のコンソーシアム「JOINT」、及び「JOINT2」の取り組みを、米国企業も交えて海外に展開する計画で、活動拠点はシリコンバレーに設置予定です。
2025年の稼働開始を目標に、2024年からクリーンルームや装置導入等の準備を開始するとしています。
参画する企業は、現時点で以下の10社となっています。
- Azimuth Industrial
- KLA Corporation
- Kulicke and Soffa Industries
- メック株式会社
- Moses Lake Industries
- ナミックス株式会社
- 東京応化工業株式会社
- TOWA株式会社
- 株式会社アルバック
- 株式会社レゾナック
US-JOINTは、シリコンバレーの研究開発拠点を活用し、顧客と一緒に半導体パッケージの最新コンセプトの検証を行うとしています。競合企業を巻き込んで最先端の材料開発を加速させるようです。
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レゾナック:プレスリリース(7/8)
アオイ電子、シャープ三重工場で半導体後工程の生産ラインを構築へ
アオイ電子とシャープおよびシャープディスプレイテクノロジーは7/9、シャープの液晶パネル工場の建物や施設を活用したアオイ電子による半導体後工程の生産ライン構築を推進していくことに合意し、基本合意書を締結したと発表しました。
今回の合意で生産ライン構築を予定しているのは、シャープ三重事業所の第1工場です。
アオイ電子は、2024年中に半導体先端パネルパッケージの生産ラインの構築に着工し、2026年中の本格稼働(パネル生産能力2万枚/月)を目指すとしています。
生産されるのは今後拡大が見込まれるチップレット集積パッケージやチップ埋め込み型パワーパッケージ、5G/6G/ADAS用高周波パッケージの予定となっています。
シャープでは、中小型液晶パネル工場の生産能力の最適化に加え、未利用・低利用となっている工場の活用、さらには他社協業による事業展開を進めているとしており、その一環での協業のようです。アオイ電子にとっては既存建屋を利用できるため短期間に生産ライン構築というメリットを享受できる見込みです。
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アオイ電子:プレスリリース(7/9)
グローバルウェーハズ、米国政府から最大4億ドルの支援が決定
台湾のシリコンウエハ大手グローバルウェーハズは7/17、米国商務省からCHIPS法に基づき最大4億ドル(約600億円)の支援を受けることを発表しました。
今回の支援は同社の子会社である GlobalWafers America がテキサス州シャーマンに設ける米国初の先進チップ向け300mmシリコンウエハ製造施設、および MEMC LLC がミズーリ州セントピーターズに新設する300mmシリコンウエハ(SOIウエハ)製造施設に活用されるとしています。
グローバルウェーハズが米国内に設ける300mmシリコンウエハ製造拠点に支援がされるようです。米国は半導体のサプライチェーンを国内での拡充を着々と進めているようです。
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グローバルウェーハズ:プレスリリース(7/17)
プロテリアル、鳥取工場を設置しパワーエレクトロニクス事業を強化
プロテリアルは7/22、鳥取市内にあるパワーエレクトロニクス事業部応用部品部と100%子会社の株式会社プロテリアルフェライト電子を2024年10月1日付で統合し、プロテリアル 鳥取工場を設置すると発表しました。
同社の鳥取地区では自動車や情報通信機器向けに電子回路でのノイズ抑制のための軟磁性材料・部品を中心に生産しています。
近年は、特にxEV等でモータ制御や電力変換を行うインバータ、コンバータなどのパワー半導体向けの需要が急拡大しており、2023年にプロテリアルフェライト電子においてパワーモジュールの絶縁基板に使用される窒化ケイ素基板の増産投資を行うなど、鳥取地区の機能を強化されています。
今後も拡大が見込まれるパワー半導体向けの需要に対応できる体制づくりの一環として、応用部品部とプロテリアルフェライト電子を鳥取工場として統合することにしたということです。
プロテリアルは旧日立金属が2023年に社名変更をしてできた会社です。パワーモジュール関連ではリードフレームや絶縁基板、さらにはSiCエピウエハなどを取り扱っています。今回はパワーエレクトロニクス製品の競争力強化を目的として子会社を吸収し拠点の整備をするようです。
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プロテリアル:プレスリリース(7/22)
積水化学、先端半導体製造用材料の生産能力増強、台湾R&D拠点新設
積水化学工業は7/25、埼玉県の武蔵工場における先端半導体製造工程に使用される高接着易剥離UVテープ「SELFA」の生産能力増強と、同製品を含む半導体関連材料の評価・分析が可能なR&D拠点を台湾に新設すると発表しました。
高接着易剥離UVテープ「SELFA」は、高い接着性とUV照射による易剥離性を両立させたテープで、薄く研磨されたウエハ等でもダメージ無く加工することが可能になるものです。こうした特性を活かしてAIや高速通信向けの最先端半導体や車載向けパワー半導体向けを中心に顧客より高く評価され、半導体市場の発展に寄与しているとしています。
このため同社では50億円を投じて生産能力の増強とR&D拠点を新設します。武蔵工場の増強は2027年上期に稼働予定で、台湾新竹市の半導体材料R&D拠点新設は2025年4月の稼働予定となっています。
積水化学では半導体分野拡大に向けて、今回の台湾の半導体材料R&D拠点を皮切りに、韓国・米国などへの拠点展開も検討しているということです。今後も投資を続けていくとみられます。
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積水化学工業:プレスリリース(7/25)
宇都宮大学ら、EUV光源を高効率化するマルチレーザー照射法を実証
宇都宮大学らの研究グループは7/26、EUV光源を高効率化するためのマルチレーザービーム照射法を提案し、EUV光源を高効率化できることを実験的に実証したと発表しました。
今回の研究は、宇都宮大学学術院、東京大学大学院、九州大学大学院、理化学研究所光量子工学研究センター、米国パデュー大学極端環境物質センター、アイルランド国立大学ダブリン校、広島大学大学院の共同研究グループによる成果です。
EUV露光機の消費電力は、そのほとんどがEUV光源によるもので、EUV光源を高出力化するために、駆動用レーザーである炭酸ガスレーザーの増幅器を増やすことで、消費電力も莫大なエネルギーとなっていることが課題です。
特に克服すべき要素技術が、 駆動用レーザーの消費電力を下げることと、EUV光源の高効率化でした。
研究グループでは、駆動用レーザーの消費電力を下げる手法として、1ビームあたりのエネルギーを下げて複数ビームを照射することで、EUV光源を高効率化できることを示しました。これによって現在使われている炭酸ガスレーザーシステム全体を高出力化せずとも、複数ビームを照射することでEUV光源を高効率化することができるとしています。
EUV露光機はその技術的な難易度の高さと共に消費電力が従来からの課題でした。今回のマルチレーザー照射法によってEUV光源の高出力化と省エネ化が期待できます。装置メーカーとしてはASMLが独占しているEUV露光機ですが、こうした技術開発が日本から出てくることは嬉しい限りですね。
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宇都宮大学:プレスリリース(7/26)
沖縄科学技術大学院大学、エネルギー効率を高めるEUV露光技術を開発
沖縄科学技術大学院大学(OIST)は7/29、新竹積教授がこれまでの先端半導体製造の常識を覆すEUV露光技術を提案したと発表しました。
先端半導体を製造する上でEUV露光技術は必須となっていますが、装置の消費電力の高さ、構造の複雑さによる装置価格の高さ、頻繁なメンテナンスの必要性などの課題があります。
今回発表されたEUV露光技術は、従来型に比べて非常にシンプルな設計となることにより、高い安定性とメンテナンス性、高いコントラスト、マスク3D効果の減少など様々な利点が生まれます。また、わずか20Wの 小型EUV光源で動作するため、消費電力がおよ1MWの従来技術に比べ、消費電力が100kW以下と10分の1にできるとしています。
本技術は、OISTが特許出願済みで、今後、実証実験を経て産業界で実用化される見通しです。
9本目のニュースはEUV露光技術の光源に関するものでしたが、本件は光学系に関するものです。こうした要素技術の開発によって高効率な露光装置の改良、さらには装置の国産化につながることを期待したいです。
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沖縄科学技術大学院大学:プレスリリース(7/29)