2023年5月に半導体業界で生じたニュースを11本ご紹介します。
動画で説明:半導体業界ニュース2023年5月号
動画で解説:22年度決算まとめ
22年度の決算が4月末から5月にかけて発表されました。代表的な企業の決算をまとめました。
半導体メーカー決算まとめ
半導体製造装置・材料メーカー決算まとめ
各ニュース記事:半導体業界ニュース2023年5月号
インフィニオン、300mm新工場の起工式を開催
パワー半導体の世界トップ企業であるドイツのインフィニオン・テクノロジーズは5/2、ドイツ東部のザクセン州ドレスデンで新工場起工式を開催したと発表しました。
この式典には、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長、ドイツのオラフ・ショルツ首相らが参加しました。 新工場は300mmウエハに対応しており、2026年秋に生産開始を予定しています。 投資額は約50億ユーロ(約7,400億円)で、このうち欧州半導体法に基づいて10億ユーロの補助金を申請しているとのことです。
インフィニオンが投資を加速しています。同社では既に、ドレスデンとオーストリアのフィラッハで300mmウエハ工場を稼働しています。新工場は、ドレスデンの既存工場に隣接する形で建設され、アナログ/ミックスドシグナルおよびパワー半導体を製造する予定です。特にパワー半導体では世界トップのシェアを誇っていますので、日本企業には離されずに付いて行ってほしいところです。
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インフィニオンテクノロジー:プレスリリース(5/2)
日本通運、熊本に半導体事業所を開設
日本通運は5/2、熊本市に「熊本半導体事業所」を2023年3月1日に開設して営業を開始したことを発表しました。
熊本県では台湾TSMC社の半導体製造工場(運営会社:JASM)の建設が進められており、今後半導体関連企業の集積が進むにつれて同地域の物流需要が増加することが予想されています。 NXグループ(旧日本通運グループ)は、NXグループ経営計画2023において、半導体関連産業を重点産業と位置付け、半導体物流の取り組みを加速させているとのことです。
今後2024年3月には、半導体関連産業にも対応する新倉庫「熊本ロジスティクスセンター」を稼働する予定としています。
TSMCの熊本工場建設に伴い、関連企業の進出と共に物流関係でも活況のようです。当然と言えば当然のことですが、地域経済に対する波及効果が大きいことがよく分かります。
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NIPPON EXPRESS:プレスリリース(5/2)
デンソー、300mmウエハでの車載用パワー半導体の量産出荷開始
自動車部品メーカー大手のデンソーとファウンドリ大手UMCの日本子会社であるUSJCは5/10、USJC三重工場の300mmラインで製造したIGBTの量産出荷を開始したと発表しました。
今回製造されたIGBTは従来品と比較してエネルギー損失を最大20%削減した小型で低損失RC-IGBT(Reverse Conducting IGBT)ということです。 このRC-IGBTをデンソーとUSJCが共同で新設した製造ラインにて生産し、2025年には月産10,000枚を目指すとしています。
USJC三重工場は旧富士通三重工場であり、2019年にUMCが買収をしています。
デンソーとUMCの協業は昨年2022年4月末に発表されています。その際に日本で初めてとなる300mmウエハでIGBTの生産を2023年の上期に開始する予定ということでしたので、予定通りの量産開始ができたようです。
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デンソー:プレスリリース(5/10)
UMC:プレスリリース(5/10)
Orbrayとミライズ、ダイヤモンドパワー半導体の共同研究を開始
Orbray(旧アダマンド並木精密宝石)とミライズテクノロジーズ(トヨタ自動車とデンソーの共同出資によって設立された車載半導体に関する研究会社)は5/11、縦型ダイヤモンドパワー半導体に関する共同研究契約を締結し、研究を開始したことを発表しました。
ダイヤモンド半導体は、現在実用化が進められているSiCやGaNよりも絶縁破壊電界や熱伝導率が高く、究極の半導体材料と呼ばれています。
今回の研究期間は 3 年間とし、Orbray とミライズテクノロジーズは、それぞれが保有するダイヤモンド基板及びパワー半導体に関する技術やノウハウ、さらにリソースを活用して、縦型ダイヤモンドパワー半導体を将来広く電動車に展開するために必要な技術を開発をするとしています。Orbrayはp型電導性ダイヤモンド基板をミライズテクノロジーズが耐圧保持構造の開発を担当します。
本研究の終了後も、両社はさらなる研究開発に向けての協業を検討する予定とのことです。
ダイヤモンド半導体の実用化に向けた研究開発が加速していきそうです。ダイヤモンド半導体基板を作るOrbrayとトヨタとデンソーが設立したミライズテクノロジーズが車載半導体向けに研究開発をすることで、まだまだ時間はかかると思いますが、将来はダイヤモンド半導体が車に載る日が来るかもしれませんね。
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Orbray:プレスリリース(5/11)
ミライズテクノロジーズ:プレスリリース(5/11)
NTT、光電融合デバイス製造会社を設立へ
NTT(日本電信電話株式会社)は5/12、IOWNによる新たな価値創造に向け、光電融合デバイスの企画・設計・開発・製造・販売を行う新会社NTTイノベーティブデバイス株式会社を2023年6月に設立することを発表しました。
IWONとはInnovative Optical and Wireless Networkの略称で、アイオンと呼称します。IWON構想は、オールフォトニクスネットワークによって従来の計算技術やインターネットの性能を越えた計算能力の向上、低消費電力化、通信遅延の解消など、安定した大容量な通信ネットワークを実現するとしています。
IOWNの大きな特徴の一つは電力効率の向上であり、その実現に向けては、光回路と電気回路を融合させた小型・高速・低消費電力等の特徴を有する光電融合デバイスを、早期に開発・提供していくことが必要で、そのためにNTT研究所において進めてきた光電融合デバイスの開発等に係る機能をスピンオフし新会社を設立するということです。
NTTが掲げているIWON構想の実現に向けて具体的に動き出したようです。光電融合デバイスについては経済産業省の資料でも取り上げられていましたので、国からの支援なども入るのではないかと考えられます。こちらも時間はかかると思われますが、期待していきたいです。
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NTT:プレスリリース(5/12)
首相と経産業大臣、グローバル半導体企業トップと面会
経済産業省は5/18、GXやDX、経済安全保障の確立に不可欠な半導体や次世代コンピューティングの分野において、海外からの人材・資金の呼び込みや投資の促進に向けた必要な方策を検討するため、これらの分野の海外企業トップとの意見交換会を官邸で開催し、岸田総理と西村経済産業大臣が出席したことを発表しました。
意見交換会に出席したメンバーはTSMCやインテル、サムスン電子など世界の半導体関連のトップ企業のメンバーです。
この中で岸田総理は、参加企業による日本への投資に関する前向きな発信を歓迎し、対日直接投資の更なる拡大、半導体産業の支援に取り組んでいく考えを述べました。
世界のトップ企業の主要なメンバーが一堂に会する場をセッティングできたことに驚きました。とは言え各企業の営利企業ですので自社にメリットがなければ対日投資などするはずはありません。補助金などのインセンティブを上手く使って活性化を図っていただきたいです。
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首相官邸:総理の一日(5/18)
経済産業省:ニュースリリース(5/18)
マイクロン、広島工場にEUV露光装置を導入へ
半導体メモリ大手のマイクロンテクノロジーは5/18、広島工場にEUV露光装置を導入し1γ(ガンマ)ノードによる次世代DRAM製造を行うことを発表しました。
EUV露光装置は最先端の半導体製造には不可欠な装置であり、オランダASMLがシェア100%を握っています。世界でも限られた企業が保有しており、日本国内の工場に初めて導入される見込みです。
同社では今後数年で1γプロセス技術に最大5,000億円を投資するとしています。
日本国内初となるEUV露光装置がマイクロンの広島工場に導入される見込みです。ただEUV露光装置は装置の入手もさることながら、実運用に際しても難易度が非常に高い装置のようです。研究開発ならまだしも量産に当たっては上手く使いこなすことができるかどうかがカギになりますね。
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マイクロンテクノロジー:プレスリリース(5/18)
インテル、理研と次世代コンピューティング分野の共同研究で連携
理化学研究所(以下理研)とインテルは5/19、AIやハイパフォーマンス・コンピューティング、量子コンピュータなどの次世代コンピューティング分野における共同研究を加速させる連携・協力に関する覚書を2023年5月18日に締結したことを発表しました。
本連携は、理研とインテルが、双方の研究能力と技術力を生かして、ゼタスケール(ゼタは10の21乗のことで、エクサスケールの1,000倍)への道における飛躍的な性能向上の可能性を追求し、グローバルに広く展開することを目的とするものとしています。
具体的な協力内容は以下の通りです。
- スーパーコンピュータやAIに関わるコンピュータ技術
- シリコンをベースとした量子コンピュータ技術、および量子シミュレーション技術
- Intel Foundry Services(IFS)社との連携よる試作
今回の連携は既存のスーパーコンピュータのみならず、シリコンベースの量子コンピュータ技術が含まれています。量子コンピュータ技術は現在主流としては超電導方式ですが、シリコンをベースとした技術開発が進めばインテルに一日の長が出てくるかもしれません。
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理化学研究所:プレスリリース(5/19)
AMAT、シリコンバレーに半導体プロセスR&D施設を新設
半導体製造装置世界最大手のアプライドマテリアルズ(以下AMAT)は5/22、世界最大かつ最先端の施設を設けて半導体プロセス技術と製造装置の研究開発(R&D)を推進するため、大規模な投資を行うことを発表しました。
シリコンバレーに約1万7000万平方メートルの研究開発施設(EPICセンター:Equipment and Process Innovation and Commercialization Center)を2026年初期までに完成させる予定とのことです。今後7年間で最大40億ドルを投資する計画です。
EPICセンター内部には半導体メーカー各社が専用のスペースを構えて、次世代プロセスや装置の早期提供を受けることが可能になるということです。2036年までに250億米ドル以上の企業R&D投資が見込まれています。
AMATの社長兼CEOのゲイリー・ディッカーソンは次のように述べています。
「半導体はグローバル経済にとってこれまで以上に重要な存在となっており、業界が直面する技術課題は複雑さを増しています。今回の投資はグローバルな業界コラボレーションのあり方を変革し、エネルギー効率のよいハイパフォーマンスコンピューティングを迅速に改善し続けるために不可欠な基礎半導体プロセスや製造テクノロジーを実現する絶好の機会となるでしょう」
先端半導体製造は数nmから近い将来Å単位の領域に入ります。より複雑で高難易度の製造技術が求められます。このためR&Dには半導体メーカーや製造装置メーカー、大学などの連携が欠かせません。そのための中心地になることを目論んでいるのかと考えられます。
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アプライドマテリアルズ:プレスリリース(5/22)
エヌビディア、市場予測上回る1Q決算で株価も高騰
エヌビディアは5/24、2024年第1四半期(2023年2~4月期)の決算を5/24に発表しました。
売上高は前年同期比13%減、前四半期比19%増の71億9000万ドル、営業利益は前年同期比15%増、前四半期比70%増の21億4000万ドルでした。
第2四半期の売上高見込みは110億ドルとなっており、これは市場予測のおよそ1.5倍でした。株式市場は大きく反応しており、同社の株価は高騰し時価総額が1兆ドルに迫っています。 今年に入ってから話題となっているChatGPTに代表される生成AIへの注目度が増し、需要が増加した見込みです。
こうしたニュースを聞くと株を買っておけば良かったと思いますが、後の祭りです。今後も伸びるかもしれませんが、投資は自己責任でお願いします。
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エヌビディア:プレスリリース(5/24)
ソニー、熊本で新たな半導体工場用地を取得
ソニーセミコンダクタソリューションズは5/25、事業説明会にて熊本県合志市に約27万平方メートルの用地を取得することを発表しました。
新たに取得する予定地は、現在イメージセンサを製造するソニーセミコンダクターソリューションズの熊本工場(熊本県菊陽町)から西に1.5kmほどの場所にあり、熊本工場と同規模の広さです。
今後イメージセンサの新工場が建設される見込みです。
ソニーでは今後2024年から2026年の3年間でおよそ9000億円を投資する見込みです。熊本県内は相変わらずの好況が続きそうです。人や設備が足りるのかは懸念されますね。
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