2023年3月に半導体業界で生じたニュースを10本ご紹介します。
動画で説明:半導体業界ニュース2023年3月号
2023年3月末時点の世界半導体市場と株式市場推移
各ニュース記事:半導体業界ニュース2023年3月号
ラピダス、工場建設予定地に北海道千歳市を選定
次世代半導体の国内製造を目指すラピダスは2/28、同社として初の工場建設予定地に北海道千歳市を選定したことを発表しました。
ラピダスは昨年、米国IBMとの共同開発パートナーシップを締結し、IBMが持つ2nmノード技術を今回は発表した工場に導入する計画です。 工場は、2025年に試作ライン、2020年代後半に量産ラインを立ち上げることを目標にするとしています。
ラピダス代表取締役社長の小池淳義氏は、「北海道千歳市は、水、電力等のインフラに加えて、自然環境との調和においても、半導体の生産に最適であり、また、研究者や工場で働く従業員にとっても、充実した生活を営んでもらえる環境が整っている。グローバルでの人材交流やエコシステムの発展等、中長期的なポテンシャルがある点を踏まえ、工場の予定地として選ばせていただいた。」とコメントしています。
今後は政府による計画や予算承認を経て、具体的な準備を始めるとしています。
ラピダスの工場建設地が決定しました。2月中旬に北海道の鈴木知事がラピダスを訪問して誘致活動をしていましたが、随分と早く決まった印象です。当然ですが全国各地の候補地を検討していたと思われますので、ある程度は決まっていたのでしょう。
ただ2025年に試作ラインを作ると言っても、これから建屋を作って装置を入れてとなりますと、時間は全然足りないように思われます。かなりタイトなスケジュールで立上げを進めなければなりません。資材や人員、装置の確保などが心配ですね。
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ラピダス:プレスリリース(2/28)
エア・ウォーター、TSMC熊本工場向けに拠点を新設へ
エア・ウォーターは2/28、熊本県菊池郡大津町にエレクトロニクス関連事業のグループ複合拠点を新設すると発表しました。
同社は大型オンサイトプラントによる窒素ガス供給のほか、特殊ガス、特殊ケミカルや供給機器、機能材料など、半導体製造のバリューチェーンを支える幅広い製品・サービスを有している企業です。
現在、熊本県菊池郡では、世界最大のファウンドリ企業である台湾TSMCの半導体製造工場(運営会社:JASM)建設が進められています。今後も国内外の半導体関連企業が集積することが見込まれることから、近隣地にエレクトロニクス関連事業に特化した複合事業所を新設するということです。
2023年6月に着工し、2024年夏の完成予定となっています。将来的には、同拠点に窒素ガスなどの産業ガス製造プラントを建設し、近隣の半導体製造工場等に供給することも視野に入れるとしています。
TSMCの熊本工場建設に伴い、関連企業の熊本に拠点を新設する動きが広がっています。今回もその一例で、まずは半導体製造に不可欠な特殊ガスなどを補完する倉庫を設けて供給体制を構築し、将来的にはガスプラントを建設する見込みです。やはり大きな工場ができることによる波及効果は大きいことがよくわかります。
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エア・ウォーター:プレスリリース(2/28)
インフィニオン、GaN Systemsを8億3000万ドルで買収へ
独インフィニオンテクノロジーズは3/2、窒化ガリウムパワー半導体企業のGaN Systemsを8億3000万ドルで買収すると発表しました。
GaN Systemsは、2008年に設立されたベンチャー企業で本社はカナダのオタワ、企業名の通りGaNパワー半導体専門のメーカーです。
ワイドバンドギャップ材料であるGaNは、特に高いスイッチング周波数が特徴です。それにより高い電力密度、高い電力変換効率が実現でき、省エネ化が期待されています。 そのため、シリコンやSiCと並んでパワー半導体の材料になりつつあり、GaN市場は2027年までに20億ドルになると予想されています。
パワー半導体で世界トップのインフィニオンがGaNの強化を進めています。将来を見据えての戦略構築は日本企業にも見習ってほしいところです。ますます差が広がってしまう点を危惧してなりません。
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インフィニオンテクノロジーズ:プレスリリース(3/2)
FLOSFIA、世界初の1700V耐圧級の酸化ガリウムSBD開発に成功
京都大学発のベンチャー企業で酸化ガリウムを使ったパワー半導体の量産を目指すFLOSFIA(フロスフィア)は3/3、同社の独自技術であるミストドライ法で作製した高品質膜を用いて、アンペア級・1700V耐圧の酸化ガリウムSBD開発に世界で初めて成功したと発表しました。
酸化ガリウム(Ga2O3)は、SiCやGaNのような現在普及が進んでいるパワー半導体材料よりもバンドギャップが大きく、耐圧性能にも優れているため、FLOSFIAでは脱炭素社会・電動化のキーデバイスとして不可欠な超低損失・超高耐圧・大電流型のパワー半導体の実用化が欠かせないと研究開発を進めています。
これまでにFLOSFIAでは、SBD(ショットキーバリアダイオード)の実証試作を通じて、世界トップデータとなる特性オン抵抗値の実現(市販SiCより86%のオン抵抗低減)や600V耐圧・1200V耐圧SBDサンプル出荷、京都大学桂キャンパス近郊(京都市西京区)のマザー工場整備など世界に先駆けて酸化ガリウムパワー半導体の実用化を進めてきました。
今後は酸化ガリウムの強みとして1kA級20kV耐圧などの超高耐圧・大電流型パワー半導体を実現し、省電力で小型の電動航空機やその他移動体のインバータや電力変換装置への応用を目指すとしています。
酸化ガリウムの研究開発も進んでいるようです。SiCやGaNよりも高いポテンシャルを持つ材料であり、基板は製造原理上SiCよりも安価に作ることができる材料です。今後の進展に期待したいです。
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FLOSFIA:プレスリリース(3/3)
三菱電機、SiCパワー半導体に2600億円投資、熊本県に新工場を建設
三菱電機は3/14、SiCパワー半導体の新工場建設をはじとするパワーデバイス事業における2021年度から2025年度までの累計設備投資を従来計画の約1,300億円から倍増させて約2,600億円を投資することを発表しました。
近年、世界的に脱炭素社会の実現に向けた省エネ志向が高まっています。特にSiCパワー半導体は、電気自動車向け需要の拡大に伴い急速な市場拡大が見込まれている他、低損失・高温度動作・高速スイッチング動作等が求められるさまざまな分野においても更なる市場の広がりが見込まれています。
そのため同社では、この市場拡大に対応するため約1,000億円を投資してSiCパワー半導体の新工場棟建設と設備増強を実施します。新工場は、熊本県菊池市に有する拠点を活用し、8インチ対応する工場となります。加えて市場の旺盛な需要に対応するため6インチウエハ製品の生産設備も増強し、さらなる事業拡大を目指すとしています。新工場の稼働は2026年4月予定です。
この他に約100億円を投資してパワー半導体の後工程新工場棟を福岡地区に建設し、同地区内に点在する組み立て・検査工程を集約します。設計・開発から生産技術検証までを一貫して行う体制を構築して製品開発力を向上し、市場ニーズに合わせた製品のタイムリーな量産化を実現するとしています。
三菱電機がSiCを中心としてパワー半導体事業の投資額を増加させます。SiCは市場需要が高まっていますがウエハもデバイスも供給が追い付いておらず、海外メーカーを中心に大規模な投資が進んでいます。日本企業が存在感を発揮している分野でもありますので頑張ってもらいたいです。
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三菱電機:プレスリリース(3/14)
経済産業省、半導体部材3品目韓国向け輸出規制を緩和
経済産業省は3/16、2019年7月に導入した韓国への半導体材料3品目(フッ化水素、フッ化ポリイミド、レジスト)の輸出管理の厳格化措置を解除することを発表しました。
輸出管理をめぐる日韓両政府の局長級対話を同日まで開き、韓国の輸出管理当局の体制や運用状況が改善されたとされています。韓国政府は16日、厳格化措置を受けて進めてきた世界貿易機関(WTO)の紛争解決手続きを取り下げると発表しています。
本件はかなり政治的な要因によるもので、ここ最近の日韓関係の改善によって輸出規制も緩和されたようです。輸出規制によって相手国へダメージを与えるつもりが、相手国の国内産業育成に一役買ってしまうこともありますので、あまり政治的な道具に使ってほしくはないですね。
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経済産業省:プレスリリース(3/16)
TEL、岩手県奥州市に半導体製造装置の新棟を建設へ
東京エレクトロン(TEL)は3/20、今後の半導体市場の需要拡大に対応するため、製造子会社である東京エレクトロン テクノロジーソリューションズ 東北事業所 (岩手県) に東北生産・物流センター (仮称) を建設することを発表しました。
新棟は岩手県奥州市に建設予定で、2024年春に着工し2025年秋に竣工する見込みです。建設費用は220億円となっています。 熱処理成膜装置・枚葉成膜装置の製造並びに物流倉庫として利用し、東北生産・物流センターの建設により、拡大する市場と多様化する技術ニーズを見据え、生産機能および物流機能の集約化を図り、製品をタイムリーに提供することで、中長期における持続的な成長と社会の発展に貢献するとしています。
東京エレクトロンの生産拠点は国内では岩手県の他に宮城県、山梨県、熊本県にあります。半導体市場は2023年は在庫調整などで一時的に減速していますが、2024年以降は再び成長に入ることが予想されています。そうした先を見据えた生産能力増強の一環とみられます。
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東京エレクトロン:プレスリリース(3/20)
関西学院大学と豊通、SiCウエハ欠陥無害化の新会社設立
関西学院大学と豊田通商は3/22、SiCパワー半導体ウエハに関する研究開発会社「QureDA Research」(キュレダリサーチ)を設立したと発表しました。
QureDA Researchは、関西学院大学と豊田通商が開発したパワー半導体材料SiCウエハの欠陥を無害化する表面ナノ制御プロセス技術「Dynamic AGE-ing(ダイナミックエージング)」をメインに、SiCウエハの高品質化、生産性向上、大口径化(8インチ)に向けた研究開発を行うとしています。
Dynamic AGE-ing技術は、関西学院大学工学部の金子忠昭教授が研究開発した技術で、高温加熱によってウエハ表面の原子配列を並び替える非接触式の加工技術を取り入れた、新たなウエハ製造法です。従来の課題であったウエハ品質の向上と低コスト化を実現するものとしています。
SiCウエハメーカーの加工工程中にこのDynamic AGE-ing技術を取り入れることで量産加工中に結晶の品質を上げるという珍しいアプローチのようです。実用化されればSiCウエハの品質があがり、デバイスの歩留り向上、コスト低減が期待できそうです。
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関西学院大学:プレスリリース(3/22)
豊田通商:プレスリリース(3/22)
NEDO、東大生産技術研とパワー半導体のエネルギー損失を半減するICを開発
NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)は3/23、東京大学生産技術研究所を中心とする研究グループと共同で、1チップでパワー半導体のエネルギー損失を低減する「自動波形変化ゲート駆動ICチップ」を世界で初めて開発したと発表しました。
今回開発された自動波形変化ゲート駆動ICチップは、出力電流を切り替えるゲート駆動回路、電流切り替えタイミングを決定するためのセンサ回路、切り替えの制御回路の3点セットすべてを1つのICチップに搭載し、自動的に波形変化を行うゲート駆動回路の1チップ化を世界で初めて実現しました。1チップ化することにより、本技術を省スペース、低コストで誰でも使うことができるようになるとしています。
本ICチップを用いると、パワー半導体の温度などの動作条件が変動しても、自動的に適切な波形でパワー半導体を駆動することができ、スイッチング時に生じるエネルギー損失とノイズの両方を同時に常に減らせて実用的です。従来のゲート駆動ICチップを提案品に置き換えるだけでパワー半導体のスイッチング損失を低減できるので、パワー半導体が世界に大量普及した社会の脱炭素化を促進することが期待されます。
従来のゲート駆動ICと置き換えるだけでパワー半導体のスイッチング損失を半減できるものですので、EVの電費改善などの省エネ化に期待できる技術のようです。
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NEDO:プレスリリース(3/23)
インテル共同創業者のひとり、ゴードン・ムーア氏逝去
インテルは3/24、同社共同創業者のひとりであるゴードン・ムーア氏が死去したと発表しました。
ムーア氏は1968年にロバート・ノイス氏らとともにインテルを設立し、1975年に社長に就任しました。1979年に会長兼CEOに就任し、同社を世界的な半導体メーカーへと成長させていきました。その後、1997年に名誉会長に就任し、2006年に退任しています。
1965年には技術誌であるElectronicsで、ICに集積されるトランジスタ数が飛躍的に増加する将来展望記事を寄稿し、後に若干の修正が加わりながら「ムーアの法則」として広く知られるようになりました。半導体業界における微細化技術進展のロードマップとして長年指針になってきました。
半導体業界の巨星が逝去されました。ショックレー半導体研究所を飛び出し、フェアチャイルドセミコンダクターを設立した8人のうちのひとりで、後にインテルの共同創業者となり、ムーアの法則で広く知られる伝説的な人物です。ご冥福をお祈りいたします。
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インテル:プレスリリース(3/24)