2022年7月に半導体業界で生じたニュースを本ご紹介します。
今月はインテル、サムスン電子、TSMCの半導体業界におけるTOP企業の4月~6月期決算発表が相次ぎました。
そしてインテルの不調さとサムスン電子・TSMCの好調さがとても対照的でした。
動画で解説:半導体業界ニュース2022年7月
2022年7月1週目のニュース
サムスン電子、GAA構造を採用した3nmプロセスの生産を開始へ
韓国サムスン電子は6/30にGAA(Gate-All-Around)トランジスタ構造を採用した3nmプロセスの生産を開始したと発表しました。
この3nmプロセスを最初に高性能、低消費電力コンピューティング向けチップに適用し、その後モバイルプロセッサにも適用していく計画としています。
今回の3nmプロセスはマルチブリッジチャネルFET(MBCFET)と呼ばれる構造で、電流が流れるチャンネルを4方向からゲートで囲むナノシート搭載GAA構造となっています。
これは、5nmプロセスに比べて消費電力が最大45%削減、性能は23%向上し、面積は16%削減できるとしています。
さらに次世代となる第2世代では、消費電力を最大50%削減、性能を30%向上、面積を35%削減できると見込まれています。
3nmプロセスはサムスン電子が発表した2022年6月末時点の半導体プロセスにおいて最先端プロセスに位置付けられており、ファウンドリ最大手のTSMCは2022年後半から量産を開始する計画を立てています。
サムスン電子が世界で初めて3nmプロセスの生産を開始しました。しかし、3nmプロセスと言っても過去に使われていたゲート長をそのまま表しているわけではなく、企業ごとに個別に定義されているため単純な比較は困難です。
加えて製造歩留りが最大の懸念と見られています。TSMCとのファウンドリ市場のシェア争い含めて今後のサムスン電子の動向に注目です。
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サムスン電子:プレスリリース(6/30)
2022年7月2週目のニュース
長引く半導体不足、ランクル受注停止・スイッチやPS5販売台数減少
トヨタ自動車は7/1にランドクルーザーの新規受注を停止していると発表しました。
その理由としては、半導体などの部品不足によって生産が追い付かず、納車まで4年から5年程度かかる状態になっているためとみられています。
半導体と一言に言っても車両にはさまざまな部品で使われています。具体的にどの部品が不足しているかは不明ですが、深刻な状況のようです。
半導体不足の長期化はゲーム業界にも影を落としています。
2022年4月から6月の国内販売台数は任天堂のニンテンドースイッチが前年同期比33%減の84万台、ソニーのPS5が前年同期比26%減の20万台となっています。
両社とも生産に苦戦しているようで、このままでは年末のクリスマス商戦に商品が足らなくなってしまう可能性があります。
日経新聞によりますと、ニンテンドースイッチではコントローラや本体に搭載するBluetooth用部品や、電流制御用アナログ半導体等がボトルネックになっているとみられています。
一口に半導体と言ってもその種類は多種多様です。メモリなどの一部では供給過剰感が出てきているようですが、足らない部品はまだまだ先行きが不透明のようです。
それにしてもランクルの納期が4,5年とは驚きです。4,5年たてば通常はマイナーチェンジなどが入りますので、長い時間待ったうえで古い機種を手に入れることになりかねません。
中古車市場において価格が高騰している理由がよくわかります。なかなかすぐには解消できない問題のようです。
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トヨタ自動車:ランドクルーザー(7/1)
ルネサス川尻工場で瞬低発生、最大2週間分の生産ロスが発生見込み
ルネサスエレクトロニクスは7/6、5日早朝に熊本県の川尻工場への送電線に落雷があり、瞬低(瞬間的な電圧低下)が発生したと発表しました。
ルネサスでは瞬低に備え、UPS(無停電電源装置)導入などの対策は実施されています。
しかし、今回の電圧低下時間は、過去10年の実績やルネサスが想定している時間を大きく超える長さとなっており、約9割の生産設備が一時的に停止しました。
ただ、瞬低後もクリーンルームの機能は維持されているとのことです。
生産設備の再立ち上げは既に行われており、6日から一部工程で生産再開がされています。瞬低前の生産能力(生産着工ベース)には、11日を目途に復帰見込みです。
瞬低当時、川尻工場で生産中であった仕掛品については、一部で廃棄が発生する見込みで、仕掛品の廃棄分と工場稼働低下による生産ロス分は、最大で約2週間分の生産量に相当する見込みとなっています。
落雷による瞬低は気象現象ですので防ぐことは難しいです。そのためルネサスをはじめとする多くの企業ではUPSを導入しています。
しかし今回の瞬低は電圧低下時間が想定していた時間よりを超過していたということで、瞬低時間の想定を見直すことも必要になるでしょう。
瞬低時に装置に仕掛っていたウエハは廃棄するほかありませんので(装置にもよりますが)、生産量のロスは避けられません。
生産分のロスは2週間分で済むようですが、川尻工場での生産量2週間分ですと結構なボリュームになるでしょうし、まだまだ半導体不足が叫ばれている中ですので影響が出ないことを望みます。
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ルネサスエレクトロニクス:プレスリリース(7/6)
東大、次世代パワー半導体用材料「AlGaN」を安価で高品質な製造方法を開発
東京大学生産技術研究所の藤岡洋教授らは7/5、次世代パワー半導体用半導体材料として期待されているAlGaN(窒化アルミニウムガリウム)の高品質な半導体結晶を安価に合成する方法を開発したと発表しました。
これまでパワー半導体用材料としてSiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)に関する研究開発が進み、既に一部での実用化が始まっています。
GaNの次の世代のパワー半導体用材料としてはGaNより絶縁破壊耐性が高いAlGaNの利用が期待されています。
しかし、AlGaN半導体では低抵抗の電極を形成することが困難であることから、これまで良好な特性を持つトランジスタは作製できていませんでした。
さらに、GaNやAlGaNの成長にはMOCVD法と呼ばれる高価な結晶成長手法が使われるため、素子の製造コストが高いという問題点もありました。
今回、一般的な量産工程にも使われている手法であるスパッタリング法を用いることで、従来のMOCVD法よりも安価に成膜することに成功しました。
加えて縮退GaNと呼ばれる新しい電極結晶構造を用いてAlGaNトランジスタを試作することで、オン抵抗の低減に成功しました。
これらの手法を用いることで低コストのパワー半導体用材料を作製することが可能になり、高性能なパワー半導体や、6G通信といった次世代無線通信用素子としての利用が期待できるとされています。
AlGaNはGaNより高い絶縁破壊耐性を持つことは確認されていました。研究レベルで実現できても実用化されるためにはコストの問題があります。
今回の成果はスパッタによって成膜できるということですので、実用化への期待も膨らみます。さらなる研究開発を進めていただきたいです。
それにしても縮退半導体という言葉を学生時代以来久しぶりに聞きました。もう一度教科書読み直そうと思います。
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東京大学生産技術研究所:プレスリリース(7/5)
2022年7月3週目のニュース
台湾TSMC、22年4~6月期売上高と利益、過去最高を更新
ファウンドリ世界最大手の台湾TSMCは、7/14に2022年4月から6月期(2Q)の売上高、純利益が四半期ベースで過去最高を更新したことを発表しました。
売上高は前年同期比44%増の5341億台湾ドル(約2兆4700億円)、純利益は76%増の2370億台湾ドル(約1兆1000億円)です。
利益率にしますと44.4%と製造業としては異次元の数値となっています。
売上に占めるテクノロジーの構成比は5nmが21%、7nmが30%と5nmと7nmで過半を占めています。
プラットフォーム別ではHPCが43%、スマホが38%となっておりこの2つで全体の8割を占めています。
ただ、CEOのC.C.ウェイ氏は「スマートフォンやパソコンなどの需要が低迷してきたため、今後業界全体で在庫調整が進むだろう」とコメントしています。
設備投資額は、従来から予想されている400億~440億ドル(約5.5兆~6兆円)を変更しませんが、「下限(である400億ドル)に近くなる」と述べています。
半導体は一部の製品ではまだまだ不足感が否めないものもありますが、直近のメモリ価格のように下落しているものも出てきています。とは言えTSMCの技術的優位性や財務健全性は目を見張るものがありますので、今後も十分な期待ができるのではないでしょうか。
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TSMC:プレスリリース(7/14)
STとGF、フランスに300mm工場を建設し共同運営へ
欧州半導体大手のSTMicroelectronics(以下ST)は7/11に米GlobalFoundries(以下GF)と共同で、フランスのクロルにあるSTの既存300mm工場に隣接する新たな300mm工場を建設し共同運営することを発表しました。
2026年までにフル稼働で立ち上がることを目標としており、フル稼働時の年間生産量は300mmウエハ換算で最大62万枚(STが42%、GFが58%)となる予定です。
新工場では、特にFD-SOI(完全空乏型シリコン・オン・インシュレーター)ベースの技術をサポートし、複数の品種をカバーする予定しています。
ここにはGFのFDXプロセス技術や、STの18nmまでの包括的技術ロードマップが含まれると説明しています。
FD-SOI技術は、超低消費電力や、RF接続、ミリ波、セキュリティなどの追加機能の統合が容易になるなど、設計者と顧客に大きなメリットをもたらすとしています。
そして今後数十年にわたり自動車向けやIoT、モバイルの各アプリケーションで高い需要が続くと予想されます。
さらに両社は、新工場建設に対して、フランスから多額の財政支援を受ける予定です。
具体的な投資金額は明らかにされていませんがフランス政府からの多額の財政支援を含む、数十億ユーロ規模の共同投資を行う予定としています。
STとGFが共同でフランスに300mmの新工場を建設します。半導体製造工場が東アジアに集中している地政学リスク解消の一端を担う位置づけになりそうです。そういった観点からはフランス政府からの財政支援も大いに期待できそうですね。
稼働は26年とまだまだ先ですが、自動車向けやIoTなどの底堅い需要向けの製品製造のようです。
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STMicroelectronics:プレスリリース(7/11)
独ボッシュ、26年までに半導体設備へ30億ユーロ投資
ドイツ自動車部品大手のボッシュは7/13、2026年までに半導体事業の設備増強に約30億ユーロ(4200億円)投資すると発表しました。
自動車業界では半導体不足による減産が続いており、生産能力を増強して、需要に対応していく見込みです。
ドイツのロイトリンゲンとドレスデンに半導体チップの研究開発センターを総額約1億7000万ユーロを投じて新設し、ドレスデンのウエハ工場に約2億5000万ユーロを投資してクリーンルームを拡張します。
ドレスデン工場では、2026年から300mmウエハでMEMSセンサを製造することを計画されています。
ボッシュの会長であるシュテファン・ハルトゥング氏は「マイクロエレクトロニクスは未来そのものであり、ボッシュのあらゆる事業分野での成功に不可欠なものです。」とコメントしています。
ボッシュではここ数年、半導体事業への投資を継続してきました。今回の発表はその手を緩めることなくさらに加速させていくものです。
ASICやMEMSセンサに加えてSiCやGaNなどのパワー半導体も手掛けています。自動車部品メーカー世界一の地位はまだまだ続きそうですね。
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ボッシュ:プレスリリース(7/13)
2022年7月4週目のニュース
住友金属鉱山、8インチSiC基板開発ラインを新設
住友金属鉱山は7/22、100%子会社であるサイコックスがSiCの8インチ貼り合わせ基板開発ラインを新設すると発表しました。
グループの大口電子内に開発ラインを設置し、完成は2024年3月を予定、さらにライン増強を行い2025年には既存6インチラインと合わせて6インチ換算で月産1万枚を目指すということです。
SiC は主に電力制御用途のパワー半導体に使用される半導体材料です。
従来材料のシリコンと比較して高電圧に対応できエネルギー損失を大きく低減できることから、近年はハイブリッド車や電気自動車のインバータなどにおいて、装置全体の小型化、電気自動車の航続距離向上を可能にする材料として、一部で利用され始めています。
SiC パワー半導体市場は急速に拡大しており、2025年には2021年比5倍の3500億円前後の規模に成長すると推測されています。
サイコックスが製造販売する貼り合せ SiC 基板(商品名:SiCkrest(サイクレスト))は、独自の接合技術を応用してウエハを2層化することで、性能面とコスト面を両立させた製品です。
低抵抗多結晶 SiC 支持基板の上に高品質な単結晶を薄く貼り合せることによって、単結晶 SiCの特性を維持しつつ、基板全体の低抵抗化、高強度化を実現しています。
また高価な単結晶基板 1枚から50枚以上の貼り合せ基板が製造可能なため、急速に拡大するSiC基板需要に柔軟に対応、環境負荷低減に貢献できると考えられています。
徐々に利用が進んでいるSiCウエハですが、目下最大の課題はコストです。サイコックスの貼り合わせ基板は今回初めて知りましたがコスト低減には効果的な技術と考えられます。
8インチ化が進めばチップ取れ数も増え、さらにコスト低減が可能になるでしょう。需要もどんどん高まっていくことが予想されていますので、8インチウエハの早期実用化を期待したいですね。
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住友金属鉱山:プレスリリース(7/22)
2022年7月5週目のニュース
インテルが不調、22年4月~6月期赤字に転落
インテルは7/28に2022年の4月~6月期決算を発表しました。
売上高が前年同期比22%減少の153億ドル(約2兆円)、最終損益が4億5400万ドルの赤字となっています。
7月~9月期の売上高予想も市場予想を下回っており、22年12月期の売上高予想は760億ドルから650億~680億ドルへ引き下げられています。
主力事業であるパソコン向けの半導体が苦戦しているようです。
決算が発表されると株価は10%を超える下落をしています。
インテルの不振さが際立ってきました。半導体市場全体にブレーキがかかりつつありますが、同じ2022年4月~6月期ではTSMCは過去最高益を更新していますので、インテルの一人負けの様相が強いです。
米国議会では半導体分野に巨額の補助金を投じる法案が可決されました。米国企業であるインテルは真っ先に補助金を受け取る可能性が高いです。
赤字に陥ったとはいえ、4四半期で2兆円の売り上げがある大企業です。補助金などの政治的な対応含めて今後も注目していきます。
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企業名:プレスリリース(7/28)
サムスン電子、22年4月~6月期の売上高は前年同期比24%増
サムスン電子は7/28に2022年4月~6月期の決算を発表しました。
半導体事業部門の売上高は前年同期比24%増の28兆5000億ウォン(約2兆8500億円)、営業利益は同44%増の9兆9800億ウォン(約9980億円)でした。
主力であるメモリはサーバ向け需要は引き続き堅調であるが、民生用製品の需要は弱くなってきているようです。
また、ファウンドリ事業は目標とする歩留りに達しつつあり、成長率が上昇しているため業績が向上してるようです。
サムスン電子はインテルとは対照的に好決算でした。直近ではメモリ価格が下がってきていますが、それでもこの決算はすごいところです。メモリ以外のセンサやファウンドリ事業が下支えしているのでしょうか。
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サムスン電子:プレスリリース(7/28)
ルネサスが好調、22年4月~6月期の売上高は前年同期比73%増
ルネサスエレクトロニクスは7/28に2022年4月~6月期決算を発表しました。
売上高が前年同期比73%増の3771億円、営業利益は同137%増の1453億円で営業利益率38.5%です。
為替による影響が大きいものの好調さが窺えます。
自社での前工程稼働率をウエハ口径別に見ますと、4月~6月期は8インチがほぼフル稼働状態で、12インチも90%を超す稼働率となっています。
同社代表取締役社長 兼 CEOの柴田英利氏は、「第2四半期までは順調だが、ここから不透明なので、慎重にかじ取りをしていきたい」とコメントしています。
ルネサスが好調のようです。為替の影響はあるにせよ、売上高、利益ともに大きく伸びており、工場もほぼほぼフル稼働の様相です。
ルネサスの主力事業である自動車向け事業と、産業・インフラ・IoT向け事業が共に成長しており、今後も期待できそうです。過去に買収したインターシル、IDT、ダイアログ社も効いているようです。
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ルネサスエレクトロニクス:プレスリリース(7/28)
経産省、キオクシア四日市工場に最大で929億円を助成
経済産業省は7/26にキオクシアが三重県四日市市に建設予定である半導体工場の生産設備の整備費用として最大で929億円を助成すると発表しました。
特定高度情報通信技術活用システムの開発供給及び導入の促進に関する法律に基づく認定特定半導体生産施設整備等計画における2件目の適用になります(1件目はTSMC子会社のJASMが熊本に作る工場)。
萩生田光一経済産業大臣が同日の閣議後会見で、キオクシアと米国ウエスタンデジタルの合弁会社から申請があった先端半導体工場の生産設備整備について「日本におけるメモリ先端半導体の安定的な生産に資する」とし、日本政府として助成金を拠出することを決めたと公表しました。
経済産業省の半導体工場に対する助成の2件目です。1件目はTSMCが熊本に作る工場で、そのためにつくった法律のようでしたが、今回はキオクシアの四日市工場における設備への助成です。
ナショナリズムに訴えかける訳ではありませんが、日本の税金ですので日本企業をより強化するために使われることを望みますので、今回のような助成をより増やしていただき、半導体業界の活性化につなげていただきたいものです。
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経済産業省:プレスリリース(7/26)