2022年4月に半導体業界で生じたニュースを9本ご紹介します。
動画で解説:半導体業界ニュース2022年4月
2022年4月1週目のニュース
昭和電工、SiCパワー半導体向け基板の量産開始
昭和電工は、3/28にパワー半導体で使用されるSiC(炭化ケイ素)単結晶基板の量産を開始したと発表しました。
同社はもともと世界最大のSiCエピウエハ外販メーカーとして、これまでSiC単結晶基板については、他のSiC結晶メーカーから購入し、その基板上にエピ加工などを施し、国内外のパワー半導体メーカーに供給してきました。
同社は、2010年から2015年にかけて経済産業省及び新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業「低炭素社会を実現する新材料パワー半導体プロジェクト」に技術研究組合次世代パワーエレクトロニクス研究開発機構の
メンバーとして参画し、SiC基板製造技術の開発を行ってきたほか、2018年には新日鐵住金グループ(現 日本製鉄グループ)のSiCウエハの開発・製造からの撤退を受け、その有形および無形資産一式を譲りうけ、SiC基板の量産技術の開発を進めてきました。
今回、複数の顧客企業に同社製6インチSiCウエハを使用したSiCエピウエハが採用されたことを受け、6インチSiCウエハの量産を開始したということです。
顧客企業としては、東芝やローム、インフィニオンらの大手パワー半導体企業のようです。これらの企業とは長期供給契約を締結しています。
昭和電工によりますと、SiCパワー半導体は、現在主流のSi製パワー半導体に比べて耐高温特性・耐高電圧特性・大電流特性に優れ、パワーモジュールの省エネルギー・高効率化、小型化に貢献することから、電動車や鉄道、産業機器など幅広い用途で急速に需要が拡大しているとのことです。
この分野では海外勢のウルフスピード(旧クリー)などが強いですが、日本企業も頑張ってもらいたいところです。
シリコンウエハでは日本の信越化学やSUMCOが強いのでSiCでもそうなってくれることを期待したいです。
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昭和電工:ニュースリリース(3/28)
凸版印刷、フォトマスク事業を分社化
凸版印刷は、4/1に会社分割によって半導体用フォトマスク事業を行う新会社「株式会社トッパンフォトマスク」を設立したこと、及び独立系投資ファンドのインテグラルを同新会社の出資パートナーとして株式譲渡契約を締結し、凸版印刷とインテグラルの合弁会社として4/1から事業を開始したことを発表しました。
凸版印刷は、1961年からフォトマスク事業を開始しており、それ以来高い技術力を武器に、半導体用フォトマスクの外販市場におけるトップシェアを占めています。
近年の半導体市場の急速な成長によって、フォトマスクの市場は変曲点を迎えているとし、事業の継続的な拡大・成長のためには、市場環境の変化、顧客動向などを見極めながら、これまで以上に迅速かつ柔軟な研究開発投資と設備投資を行うことが求められているという判断を行い今回の分社化に至ったと説明されています。
凸版印刷はフォトマスク市場ではトップメーカーですが、凸版印刷の売上におけるエレクトロニクス事業分野の割合は大きくありません(1割強)。
今回分社化によって、より攻めた経営ができることを期待したいです。フォトマスクは半導体製造メーカーによる内製もされていますが、マスク専業メーカーとしての強みを活かせるかが注目点ですね。
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凸版印刷:ニュースリリース(4/1)
2022年4月2週目のニュース
キオクシア、北上工場第2製造棟の建設を開始
キオクシアは、4/6に北上工場(岩手県北上市)の第2製造棟(K2棟)の起工式を行ったと発表しました。
K2棟の建屋面積は約3万1000m2で7階建て、竣工は2023年中を予定しています。
総投資額として1兆円規模が見込まれています。
建屋面積はK1棟の約4万m2と比べると少し小さいですが、5階建て2層構造のK1棟とほぼ同じ規模になると見込まれており、北上工場の生産能力はおよそ2倍になるとみられています。
K2棟は免震構造を採用するとともに、再生可能エネルギーの利用など環境面も重視し、人工知能(AI)を活用した生産システムの導入などを推進し、北上工場全体の生産性ならびにフラッシュメモリ製品の品質をさらに向上させるとしています。
K2棟の建設に合わせて、管理部門、技術部門が入る管理棟も同時に建設されます。
管理棟については地上13階、地下1階建て、延床面積は約3万9000m2で、将来的な人員拡大に備えて約2000人の執務スペースを有する予定です。
キオクシアの早坂社長は、「四日市に大きな工場を有しているが、製造が1カ所に集中するリスクを考え、北上に進出した。今後も拡大して四日市に匹敵するような拠点にしたい」と、今後の第3、第4の製造棟建設への意欲を示しているとのことです。
キオクシアの投資攻勢が続いています。今後も北上工場を拡大させる方針を明らかにしており、動向が注目されます。ただし製造装置や製造に必要な人材(技術者や作業者等々)の確保はどこも課題になっていますので、その点が少し懸念されます。
とは言えシェア獲得には投資を緩めるわけにはいかないと思いますので、今後の動きにも期待していきたいです。
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キオクシア:ニュースリリース(4/6)
2022年4月3週目のニュース
キオクシアとウエスタンデジタル、四日市工場第7製造棟の共同投資に合意
キオクシアとウエスタンデジタルは、4/15に四日市工場(三重県四日市市)の第7製造棟における共同投資について合意したと発表しました。
この共同投資を踏まえて両社は、2022年4月に建屋が完成した第7製造棟の第1期について、2022年秋からの生産開始を目指すとしています。
第7製造棟は世界最大級のフラッシュメモリ工場である四日市工場において、両社が共同投資する6番目の製造棟になります。
ここでは112層、162層、およびその先のノードを含む3次元フラッシュメモリの生産に対応する予定となっています。
両社のトップは、今後も3次元フラッシュメモリの共同開発および市場動向に沿った共同投資を通じてシナジー効果を最大限発揮し、それぞれの競争力を強化してメモリ分野におけるリーダーシップを強化していく旨のコメントをしています。
直近では北上工場の投資に力を入れているキオクシアですが、現状のメイン工場である四日市工場でも投資を緩めてはいません。
フラッシュメモリは韓国勢と熾烈なシェア争いを続けていますので、投資を緩めることなく戦ってほしいものです。
それにしても、フラッシュメモリの多層化はとうとう100層を超えて、162層まで達しているんですね。進化は止まりませんね。さらなる技術開発も期待したいです。
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キオクシア:ニュースリリース(4/15)
台湾TSMC、22年1~3月期売上高と利益、過去最高を更新
ファウンドリ企業最大手の台湾TSMCは、4/14に2022年1月から3月期の売上高、純利益が四半期ベースで過去最高を更新したことを発表しました。
売上高は前年同期比36%増の4910億台湾ドル(約2兆1000億円)、純利益は45%増の2027億台湾ドル(約8700億円)です。利益率にしますと41%と製造業としては異次元の数値となっています。
主要顧客であるアップルが3月にiPhoneやMacの新製品を相次ぎ投入しており、世界的な半導体不足が続く中、年初から進めていた値上げも業績拡大に貢献した模様です。
魏哲家 最高経営責任者(CEO)は同日に開いたオンラインの記者会見で、現在の最先端プロセスより2世代先の技術となる「2ナノ品」について、25年に量産する計画だと述べています。
22年の設備投資については、21年に比べて約4割ほど多く最大440億米ドル(約5兆5000億円)が計画されています。
TSMCの勢いが止まりません。世界的な半導体不足の中、顧客は値上げも受け入れてTSMCへ多くの依頼をしているようですので、製造業としては異次元の利益率41%となっています。
設備投資の手も緩めいてませんので、今後もしばらくはファウンドリではTSMC1強の時代が続きそうです。
2nm品の量産も見えてきているということですので、どこまで行くのか興味が尽きません。
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TSMC:ニュースリリース(4/14)
2022年4月4週目のニュース
ディスコ、21年度売上高と利益で過去最高を更新
ダイシング装置大手のディスコは、4/21に2021年度通期の決算説明会を開催しました。
売上高は2537億円で、2020年度の1828億円と比較して38.8%増であり、過去最高を更新しています。
営業利益は915億円(前年度は531億円)、営業利益率は36.1%(前年度は29.0%)であり、こちらも過去最高となりました。
さらに、2022年1~3月期では売上高は735億円、営業利益は282億円、営業利益率は38.4%と、四半期ベースでも売上高および各利益率で過去最高を更新しています。
2022年4~6月期の業績見通しについては、売上高624億円と減収が見込まれています。ただし、これは顧客の検収のタイミング(ディスコは検収ベースで収益を計上)が読みにくいことが原因としており、市場動向によるものではないとしています。
出荷額としては683億円と高水準、前四半期比で横ばいを見込んでいます。
足元においても装置、消耗品に対する需要は強く、工場もフル稼働を継続しているとコメントしています。
半導体業界全体が好調であるため、好決算であるのは理解しますが、それにしても売上高が前年比で40%近いことには驚きます。
また営業利益率も高いですね。ディスコで働く方々の給料や賞与にもきっと反映されていることでしょう。株主への配当金も過去最高となっていますね。
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ディスコ:決算説明会資料(4/21)
アダマンドと佐賀大、2インチダイヤモンドウエハ量産技術を開発
アダマンド並木精密宝石(以下アダマンド)と佐賀大学は、4/19に超高純度の直径2インチのダイヤモンドウエハの量産技術を開発したことを発表しました。製品化を2023年に予定しています。
量子コンピュータ用の量子メモリや、超高感度磁気センサーといった用途に向けることが想定されています。
アダマンドは佐賀大学との共同研究により、独自のステップフロー成長法を用いて直径2インチの高品質ダイヤモンドウエハ「KENZAN Diamond」を開発したと、2021年9月に発表していました。
しかしこの時点では、高い成長速度を実現するために窒素ガスを用いていました。このため、ダイヤモンド結晶には数ppmの濃度の窒素不純物が混入しており、量子コンピュータ用途では用いることができないレベルでした。
その一方で市販されている超高純度ダイヤモンドは、窒素濃度が3ppb以下となっていますが、ウエハサイズが4mm角と小さく、あくまでも研究用途に限られていました。
そこでアダマンドは今回、結晶成長の工程で窒素の混入を抑えることで極めて純度が高い直径2インチのダイヤモンドウエハを量産できる技術を開発しました。今後、周辺技術も開発、確立して早期の量産を目指すとのことです。
ダイヤモンドはその物理的な特性上、究極の半導体となると言われています。まだまだ大学や研究所での研究段階であると勝手に考えていましたが、2インチとは言え量産化が見えてきている模様です。
結晶が量産化されれば、デバイスやプロセス開発も加速すると考えられますので、日本から独自の材料技術に基づいた半導体ができることに期待したいです。
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アダマンド並木精密宝石:公式ブログ(4/19)
佐賀大学:プレスリリース(4/19)
2022年4月5週目のニュース
デンソー、台湾UMCと協業し300mmラインでのパワー半導体生産へ
デンソーと台湾UMCは、4/26にUMC傘下のユナイテッド・セミコンダクター・ジャパン株式会社(以下USJC)の三重工場で300mmウエハ製造ラインにおけるパワー半導体生産で協業することを発表しました。
USJCの三重工場にIGBT製造ラインを新設し、日本で初めてとなる300mmウエハでIGBTの生産を2023年の上期に開始する予定とのことです。
USJCが工場設備とクリーンルーム、主要な製造装置を設置し、デンソーも製造に必要な備品等を供給し新規ラインを構築する模様です。
IGBTは世界的なCO2削減の取り組みにおいて加速している電動車の開発・普及の中で、電動車のモーターを駆動・制御するために、直流と交流を変換するインバーターにおいて、電源・電流のオンオフを切り替える機能を持つパワーカードに使用される中核デバイスとなっています。
デンソーの有馬社長は、「300mmウエハでのIGBT量産に、日本国内で初めて乗り出すことができることを大変うれしく思います。自動運転や電動化などモビリティのテクノロジー進化の中で、半導体は自動車業界において、ますます重要になってきています。本協業により、電動車に必要不可欠なパワー半導体の安定的な調達を実現し、自動車の電動化に貢献していきます。」と述べています。
USJC三重工場は旧富士通三重工場であり、2019年にUMCが買収をしています。
パワー半導体であるIGBTでの300mmウエハ量産が本格化してきました。海外では既にインフィニオンなどが先行しています。国内では東芝も石川県の工場での稼働を目指しています。
トヨタも電動化戦略を発表していますし、そこに載るインバータ向けIGBTになるのでしょう。数量も桁違いに増えていくはずですので、300mmウエハを使って数量確保とともにコストを下げていくようです。
日本の自動車産業と一緒に半導体も頑張ってほしいです。本格量産が待ち遠しいですね。
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デンソー:プレスリリース(4/26)
UMC:プレスリリース(4/26)
NTT、次世代パワーデバイスのAlNトランジスタを世界で初めて成功
NTTは、4/22にウルトラワイドギャップ半導体と呼ばれる窒化アルミニウム(AlN)を用いたトランジスタ動作に成功したと発表しました。
現在、半導体デバイスのほとんどはシリコンから作られていますが、材料としてシリコンを超える性能を有するワイドギャップ半導体と呼ばれるシリコンカーバイト(SiC)や窒化ガリウム(GaN)を活用することで、パワー半導体の低損失化、高耐圧化が進み、省エネルギー化が実現できるため、開発と量産が進められています。
SiCやGaNを超すウルトラワイドバンドギャップ半導体を用いることで、パワー半導体のさらなる性能向上が期待されており、その候補としてAlNのほかにダイヤモンドや酸化ガリウム(Ga2O3)などの研究開発が進められています。
これらの3種類のウルトラワイドバンドギャップ半導体候補材料の中でもAlNはバンドギャップが6.0eVと、ダイヤモンドの5.5eV、Ga2O3の4.5eVと比べても広く、絶縁破壊電界は12MV/cmと、ダイヤモンドの10MV/cm、Ga2O3の8MV/cmと比べても大きいため、AlNを用いたパワー半導体が実用化できれば、電力損失をシリコンの5%以下、SiCの35%以下、GaNの50%以下にまで低減できることが理論的に予想されています。
今回NTTは、原料ガスの供給方法を工夫した独自のMOCVD法を用いることで、AlN結晶中の残留不純物および結晶欠陥の密度を低減させて作製した高品質AlN半導体を用いて、良好な特性のトランジスタを動作させることに初めて成功しました。
AlNトランジスタの電流-電圧特性は、オーミック特性による線形性の良い電流の立ち上がりと極めて小さいリーク電流を示しました。加えてパワーデバイスの性能として重要な絶縁破壊電圧も1.7 kVと大きい値を実現しました。
今後は、AlN半導体の低損失・高耐圧パワー半導体への応用と耐環境デバイス応用を目指し、ヘテロ接合形成によるさらなる特性向上、高温におけるデバイス動作物理の解明などを今後進めていくとしています。
酸化ガリウムやダイヤモンドは量産に向けた技術開発が進んでいます。それらに加えて今回は窒化アルミニウムを使った素子の開発に成功したというニュースです。
今回はまだ素子動作に成功したというレベルですので、まだまだこれから更なる研究開発が必要と考えられますが、材料としてのポテンシャルは高いため、今後の進展に期待したいです。
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NTT:ニュースリリース(4/22)