2022年3月に半導体業界で生じたニュースを9本ご紹介します。
ウクライナ情勢や、各社への不正アクセスなどネガティブなニュースが目立ちますが、インテルやキオクシアによる新工場建設の話題もありました。
動画で解説:半導体業界ニュース3月号
2022年3月1週目のニュース
台湾TSMC、熊本工場(JASM)の計画概要を公開
台湾TSMCが熊本県に建設する新工場について、2/28に熊本県企業誘致連絡協議会主催のオンラインセミナーでTSMCとソニー、デンソーの合弁会社であるJapan Advanced Semiconductor Manufacturing(以下JASM)の代表取締役社長を務める堀田祐一氏が概要を明らかにしました。
それによりますと、熊本県菊陽町に建設予定の新工場は2022年4月に着工し、2023年9月に完成、2024年12月までに製品の出荷を始める予定です。
新工場の稼働にあたっては約1700人の雇用が想定されています。そのうちの300人はTSMCからの出向、200人程度をソニーからの出向となる見込みです。
雇用全体の約7割はすでに募集が始まっている中途採用者と新卒採用者及びアウトソースで人材を確保する計画です。
JASMの具体的な計画が明らかになってきています。人材確保の動きも活発化されているようです。
個人的にも非常に興味はありますが、応募するまでの意志と度胸を持ち合わせていません。
とは言え、このニュースは世間の注目度が高く半導体関連のニュースでは珍しくよく報道されることでしょう。私も継続的にウォッチしていきます。
ノベルらがHVPE法で6インチウエハ上への酸化ガリウム成膜に世界で初めて成功
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「戦略的省エネルギー技術革新プログラム」において、ノベルクリスタルテクノロジーは大陽日酸、東京農工大学と共同で、次世代の半導体材料として注目される酸化ガリウム(β-Ga2O3)をハライド気相成長(HVPE)法によって6インチウエハ上に成膜することに世界で初めて成功したことを3/1に発表しました。
これによって、大口径かつ複数枚のエピウエハを製造可能なβ-Ga2O3量産成膜装置の開発を大きく進展させ、成膜コストが課題となっていたβ-Ga2O3エピウエハの大口径・低コスト化の実現につながるものとしています。
β-Ga2O3ウエハはSiCやGaNと異なり、バルク結晶の育成が速い融液成長で製造が可能であり、大口径・低価格なウエハを得やすくパワーデバイスの低コスト化に有利です。
しかし、β-Ga2O3の成膜に採用されているHVPE法は安い原料コストや高純度成膜が可能である反面、HVPE法による成膜装置は小口径(2インチまたは4インチ)かつ枚葉式のものしか実用化されていないという課題がありました。
このため、成膜コストを低減するためにはHVPE法による大口径(6インチまたは8インチ)でバッチ式の量産装置の実現が必須とされていました。
そこで同社はNEDOの「戦略的省エネルギー技術革新プログラム/次世代パワーデバイス向け酸化ガリウム用の大口径量産型エピ成膜装置の研究開発」プロジェクトにおいて、大陽日酸および東京農工大学と共に開発取り組み、今回、6インチウェハ上へのβ-Ga2O3の成膜に成功したということです。
酸化ガリウムは、炭化ケイ素(SiC)と窒化ガリウム(GaN)に続く第3のパワーデバイス用ワイドバンドギャップ半導体として注目を集めている化合物半導体です。
パワーデバイスとしての理論的な性能は、炭化ケイ素や窒化ガリウムをも超える優れた材料であり、今後の技術開発が期待されています。
6インチのテストウエハ成膜に成功し、2024年に量産装置の製品化を目指しているとのことです。
開発用のテストウエハとは言え、6インチ化できたことの意味は大きいです。SiCなどは6インチ化までにかなりの年月を要していたのに対して、酸化ガリウムの開発スピードは速いです。
実用化に向けた今後の開発に期待しています。素子開発も本格化してもらいたいです。
- 参考動画:パワーデバイス用半導体としてのβ-Ga2O3の魅力について
- 基ニュース
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ノベルクリスタルテクノロジー:ニュースリリース(3/1)
キオクシア、NAND工場操業再開も出荷容量減少の見込み
キオクシアは、3/3に一部の製造工程を停止していた四日市工場(三重県四日市市)と北上工場(岩手県北上市)の操業についての続報を発表しました。
同社は2/10に1月下旬より四日市工場と北上工場において、3次元フラッシュメモリ「BiCS FLASHTM」の特定の生産工程における不純物を含む部材が起因となり一部操業に影響が出ていることを発表していました。
しかし当該工程において対策を進めた結果、2月下旬に両工場は通常稼働へと回復しているとのことです。
今後の3次元フラッシュメモリ「BiCS FLASHTM」の出荷への影響は明らかにしていませんが、協業している米国ウェスタンデジタルによりますと、出荷量が記憶容量ベースで約7エクサバイト減少する見込みだと公表しています。
ウェスタンデジタルが明らかにした減少分にはキオクシア分は含まれておらず、キオクシアの損害は同等以上の可能性があります。
キオクシアは不純物を含む部材の詳細については明らかにしていませんが、原因の追究やその対策は相当なものであったことは同業者としては容易に推測できます。
約1カ月という短期間で対応していることについては、対処したエンジニア各位に敬意を表したいです。
とは言え、会社としては大きな損害です。2022年上期の韓国勢の売り上げ、シェア増加の可能性が高まりそうです。
- 基ニュース
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キオクシア:ニュースリリース(3/3)
キオクシア:ニュースリリース(2/10)
ウェスタンデジタル:ニュースリリース(3/2)
2022年3月2週目のニュース
半導体関連企業にも不正アクセスが複数発生
トヨタ自動車が2/28に国内仕入れ先のシステム障害を受けて、3/1に国内全14工場、28ラインの稼働を停止すると発表したことは大きく報道されました。
トヨタにとって、サプライチェーン(部品供給網)のシステム障害で国内工場の稼働を停止したのは今回が初めてです。
半導体業界にも不正アクセスが複数発生しています。
台湾グローバルウェーハズの日本法人であるグローバルウェーハズ・ジャパンは、2/28に社内サーバに不正アクセスを受けたことを確認し、ネットワークから社内システムを切り離す措置を実施しました。
これによって、シリコンウエハの製造および出荷ができなくなっていることを3/2に公表しています。この時は、3/3には製造、出荷の再開について公表する見込みとしていますが、3/9朝時点では発表されていません。
半導体向け研磨剤で世界シェアトップを誇るフジミインコーポレーテッドも3/2に同社サーバに明確なサイバー攻撃の痕跡が見つかったと発表しています。
具体的な攻撃内容や被害状況は調査中で、攻撃による顧客情報の流出は確認されていないとしています。
ウクライナ情勢の緊迫化などから、サイバー攻撃事案のリスクは高まっていると考えられています。トヨタをはじめとするこれらのサイバー攻撃は明らかになっている事案であって、表沙汰になっていない事案や、企業側が気が付いてない事案も多くあると想定されます。
自社でも気を付けるようなアナウンスがたくさんされています。どの業界、企業、個人にとっても他人事ではすまされないのが現代社会であることを改めて浮き彫りになりました。皆さん気を付けましょう。
2022年3月3週目のニュース
ロシアのウクライナ侵攻影響が半導体業界へも波及
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が連日報道されています。
政治的、人道的な影響ももちろんですが、半導体業界へも影響が出ています。
半導体製造に必要となる希ガスやレアメタルなどの原材料の一部にロシアやウクライナの依存度が高いものがあり、サプライチェーンへの影響が深刻化しています。
ウクライナはネオン(Ne)やアルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)などの半導体製造用原料ガスの主要な供給国であり、特にネオンについては、世界の生産能力の7割近くを供給しています。
ロイター通信によりますと、半導体製造用のネオンガスを生産するウクライナの主要メーカー2社(インガスとクライオイン)が操業を停止しており、この2社でネオンの世界の供給量の約半分を占めるとのことです。
また、配線やめっき加工などで使用されるパラジウム(Pd)はロシアが世界シェアの約4割を占めており、供給不足や価格高騰リスクが高まっています。
今後もさらなる半導体不足の深刻化が懸念されます。
だれもが21世紀に主権国家に対しての軍事侵攻が本当に生じるとはと思ったのではないでしょうか。私もそのひとりです。
政治的なコメントをしたい訳ではありませんが、早く停戦してほしいです。そして半導体製造への影響も最小限になることを望みます。
デンソー海外拠点でサイバー攻撃を受ける
トヨタ系部品会社最大手で、車載用半導体製造も行っているデンソーのドイツにあるグループ会社で、サイバー攻撃があったことを3/14に発表されました。
発表された内容によりますと、3/10にネットワークへの第三者による不正アクセスを受けたことが確認されています。
生産活動への支障はなく、通常通り稼働しているとのことです。
デンソーでは2021年末にもメキシコの工場でサイバー攻撃を受けています。
先日はトヨタ系の別の部品会社で不正アクセスがありシステム障害となり、トヨタの全工場で稼働停止が起きています。
不正アクセスやサイバー攻撃といった報道が増加しているように思えます(定性的なコメントですみません)。
ただこうした事案はランサムウェアによるものが多く、個人に送られてくるメールなどに悪意あるソフトウェアであるマルウェアが組み込まれていることによって生じています。
他人事ではないので、不審な添付ファイルやURLにアクセスしないよう充分に気を付けたいです。
- 基ニュース
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デンソー:ニュースリリース(3/14)
米インテル、ドイツに新工場建設で2兆円投資
インテルは、3/15にドイツ東部のマクデブルクに新工場を2棟建設すると発表しました。
投資額は170億ユーロ(約2兆2000億円)で、2023年の上半期に着工し27年に生産を開始する予定です。
さらにアイルランドでは120億ユーロ(約1兆5000億円)を投じて既存工場を拡張、イタリアでも工場建設に向けた交渉に入ったとのことです。
スペインやポーランドなどの研究開発拠点も拡充し、全体の投資額は330億ユーロ(約4兆3000億円)を超える壮大な計画です。
インテルが果敢な投資を加速させています。
業界不動の1位の地位も近年はサムスン電子に脅かされていますし、先端プロセス開発ではTSMCの後塵を拝しています。 今回の欧州地域への壮大な投資がどんな結果をもたらすのか、5年10年先が楽しみです。
- 基ニュース
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インテル:ニュースリリース(3/15)
2022年3月4週目のニュース
キオクシア、北上工場に新棟建設へ
NANDフラッシュメモリ大手のキオクシアは3/23に北上工場(岩手県北上市)において、2022年4月から新棟となる第2製造棟(K2棟)を建設すると発表しました。2023年に完成予定です。
K2棟は、第1製造棟(K1棟)の東側の土地に建設され、投資額は営業キャッシュフローの範囲内で行う計画とされています。
具体的な投資額は明らかになっていませんが、各報道では約7000億円から1兆円程度と見込まれています。
建設されるK2棟は、地震の揺れを吸収する免震構造を採用するとともに、最新の省エネ製造設備の導入や再生可能エネルギーの利用などで環境面も重視した工場となる予定とされています。
また、人工知能(AI)を活用した生産システムの導入などを推進し、北上工場全体の生産性とフラッシュメモリ製品の品質向上を見込んでいるそうです。
キオクシアは現在主力の四日市工場に加えて北上工場での投資を加速させているようです。同社が発表していますようにフラッシュメモリは今後もクラウドや5G通信、AIに自動運転などの普及に必要不可欠な半導体です。
大容量化、高品質化、そして世界市場の拡大に期待をしたいです。
- 基ニュース
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キオクシア:ニュースリリース(3/23)
ルネサス、福島県沖地震からの生産復帰へ
ルネサスエレクトロニクスは、3/16に起きた福島県沖地震からの生産復帰について3/23に発表しました。
その内容によりますと、主力工場である那珂工場(茨城県ひたちなか市)は3/23を目途に地震発生前の生産能力に復帰する当初の見込みからやや遅れ、3/26に概ね復帰する見込みとなったようです。
高崎工場(群馬県高崎市)と米沢工場(山形県米沢市)はそれぞれ、3/23と3/20に地震発生前の生産能力に復帰したとのことです。
地震大国日本において、震災は避けられないものです。各工場では地震対策や、災害からの復旧規定などが決まっているはずですが、実際に地震などが起きますとその復旧活動は容易ではありません。
それを短期間で実施されている工場関係者の方々の努力は並大抵ではないことは、工場勤務の私でなくても簡単に想像できると思います。ただただ頭が下がります。
しかも今後はこの地震で生じた生産ロス分を挽回される計画になっているはずですので、頑張っていただきたいです。無理のない範囲でと思いますが、そこはビジネスですので難しいかじ取りになりますね。
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ルネサスエレクトロニクス:ニュースリリース(3/23)