2023年8月に半導体業界で生じたニュースをご紹介します。
動画で説明:半導体業界ニュース2023年8月号
2023年8月末時点の世界半導体市場と株式市場推移
各ニュース記事:半導体業界ニュース2023年8月号
DIC、PFAS不使用の界面活性剤を開発
日本のファインケミカルメーカーであるDICは8/1、有機フッ素化合物PFAS(ピーファス)不使用でありながら、従来のフッ素系界面活性剤と同等以上の性能を持つ環境配慮型の界面活性剤を開発したと発表しました。
PFASをはじめとするフッ素系化学物質は少量の添加で表面張力を下げ、界面活性を改善するため、ディスプレイ、半導体、自動車、塗料などのさまざまな産業用途で使われています。
半導体製造においては、ドライエッチング装置用の冷媒として必要不可欠な材料です。しかし、近年ではその使用にあたり環境への潜在的リスクから欧米を中心にPFAS規制の議論が進行すると共に、代替品の開発が強く求められていました。冷媒として高いシェアを持つ3M社は2025年末までにPFAS製造から撤退すると発表しています。
DICではこうした世界的な需要に対応するため開発に着手し、従来のフッ素系製品と同等以上の高い表面張力低下能を有し、優れた均一塗布性を実現したとのことです。
PFASは「パーフルオロアルキル化合物、ポリフルオロアルキル化合物」のことで4730種を超える有機フッ素化合物の総称。
自然界で分解しにくく水などに蓄積することがわかったほか、人への毒性も指摘されており、国際条約で廃絶や使用制限が進められています。
自然界で分解されにくく、永遠の化学物質フォーエバーケミカルとも呼ばれています。
環境や人体への影響が徐々に明らかになってきたPFASですが、PFASフリーの材料開発がなされたことは意義があると思います。国内メーカーから出てきた点についても喜ばしいですね。
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DIC:プレスリリース(8/1)
インフィニオン、マレーシアのSiC工場に最大50億ユーロの追加投資
インフィニオンテクノロジーズは8/3、マレーシアに200mmウエハのSiC工場を新設する計画を発表しました。
今後5年間で最大50億ユーロの追加投資を行う予定です。 同社では2022年の2月にマレーシアのクリム工場にSiC、GaNの前工程工場を建設すると発表し、2024年の生産開始に向けて建設が進められています。今回、この計画に追加投資を行い大幅な拡張をすることによって、世界最大の200mmSiC工場を建設するとしています。
インフィニオンがSiCパワー半導体製造で追加投資を行い、市場シェア拡大に向けて攻勢をかけるようです。今回の追加投資は既に自動車メーカー6社の顧客が決まっているようで、車両の電動化とそれに必要なパワー半導体の市場拡大が加速してるようです。日本企業も各社投資をしていますが、インフィニオンの攻勢に対してはかなり厳しい戦いになりそうですね。
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インフィニオンテクノロジーズ:プレスリリース(8/3)
SBI、第1四半期決算説明でPSMCとの共同ファウンドリ計画進捗を説明
SBIホールディングスは8/4、第1四半期(4月から6月期)決算説明会で7月に公表した台湾PSMCとの共同ファウンドリ事業の進捗説明をしました。
決算説明資料によりますと、国内工場立地について現在25の地域を候補として選定を進めており、8月中に現地視察を開始する予定とのことです。 またその工場においては、生産能力として1万枚をスタートとして段階的にライン増強を進め、最終的には4万枚/月の生産体制構築を目標に掲げています。
SBIがPSMCと共同で設立するJSMCの工場立地選定が進んでいるようです。ただ候補地として25もの地域があるということですので、具体的な地域名は公表されていません。北海道ではラピダスが、九州ではJASM(TSMC熊本工場)の工場建設が進んでおり、人材や資材などの確保に課題があると考えられます。立地が確定しましたら発表されると思いますので、引き続き注目していきたいです。
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SBIホールディングス:決算説明資料(8/4)
東芝、国内連合によるTOBが開始、非上場化へ
日本産業パートナーズは8/7、同社を含めた国内企業連合が8/8から東芝へのTOB(株式公開買い付け)を開始すると発表しました。東芝も同日TOBに賛同、株主に対して応募を推奨することを決議、発表しました。
1株当たり4620円で買い付けを行い、買収総額は約2兆円となります。全体の3分の2以上の応募で成立、成立した際は東芝は上場廃止となり、70年以上に渡る上場の歴史に幕を下ろす見通しです。
今回の買収には、日本産業パートナーズの他国内企業20社以上が出資、国内金融機関も融資を行います。特にロームは7月に3,000億円を拠出することを発表しており、その他オリックスが2,000億円、日本特殊陶業が500億円の拠出を発表しています。
ロームは、半導体事業として東芝と同じくパワー半導体の生産を行っています。原材料の調達や、開発・生産における連携や協業を通じて様々なシナジーを創出できる可能性があり、親和性が高いとしています。
東芝に対するTOBがいよいよ開始されます。とは言え、ここがスタートラインですので、TOBが成立したとして各事業がどういった環境に置かれるかは分かりません。半導体事業に関してはロームとの連携、協業が進むのか、今後の動きに注目していきます。
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東芝:プレスリリース(8/7)
日本産業パートナーズ:プレスリリース(8/7)
TSMC、欧州初となる工場をドイツに建設へ
TSMCは8/8、ドイツ東部のドレスデンに欧州で初となる半導体工場を建設すると発表しました。
ドイツの自動車部品大手ボッシュ、ドイツの半導体大手インフィニオンテクノロジーズ、オランダの半導体大手NXPセミコンダクターズと合弁で、投資総額は100億ユーロ超えとなる見込みです。
新工場(合弁会社European Semiconductor Manufacturing Company:ESMC)の出資比率はTSMCが70%、ボッシュ、インフィニオンテクノロジーズ、NXPセミコンダクターズの3社がそれぞれ10%です。 2024年後半に着工し、2027年末から生産開始となる予定。プロセスノードは28/22nmプレーナCMOS、16/12nmFinFETで、生産規模としては300mmウエハ換算で月産4万枚になるとしています。
TSMCのCEOであるC.C.Wei氏は「欧州は特に自動車および産業分野における半導体イノベーションにとって非常に有望な場所であり、私たちは欧州の才能ある人材とともに当社の高度なシリコン技術でそれらのイノベーションを実現することを楽しみにしています。」と述べています。
TSMCの欧州における工場建設が決まりました。地場のユーザ企業が出資し、ドイツ政府による補助金がおよそ50億ユーロと投資総額の半分近く出ることなどは日本の熊本工場建設時のスキームとほとんど同じ内容です。プロセスノードや生産枚数も凡そ同じです。生産拠点として地理的な分散が進みますが、半導体製造におけるTSMCの存在感がより一層大きくなりそうですね。
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TSMC:プレスリリース(8/8)
ソシオネクスト、インドに設計開発拠点を新設
ソシオネクストは8/10、インドのベンガルール(旧称:バンガロール)に新たな研究開発拠点を開設し、グローバルな事業拡大を支えるためのエンジニアリングリソースの強化をはかったことを発表しました。
ベンガル―ルは「インドのシリコンバレー」として知られており、先端技術やソフトウェア企業の一大拠点となっています。この都市には、多数の研究開発センター、IT スタートアップ、ゲーム会社や、豊富な人材を企業に提供する数百もの工科大学があります。
同拠点にについては、事業拡大に対応するための拠点として、戦略的に選定した。顧客のニーズに対してより良いサービスを提供するために、研究開発リソースの拡大に努めていくとしています。
ソシオネクストが設計開発力の強化と、同社のプレゼンス拡大のためにインドに拠点を設けます。ただ、他の大手企業と比較して知名度は劣後すると想定されますので、今後はインドで実際に人材獲得が進むかが課題になりそうですね。
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ソシオネクスト:プレスリリース(8/10)
インテル、タワーセミコンダクターの買収を断念
インテルは8/16、半導体の受託製造を手掛けるタワーセミコンダクター(イスラエル)の買収を断念したと発表しました。契約期限内に必要となる規制当局の承認を得られなかったことが要因としています。
インテルは2022年2月に約54億ドルでタワーセミコンダクターを買収することで合意したと発表し、1年間で手続きを完了させる予定でした。
今回の契約終了に伴い、インテルはタワーセミコンダクターに違約金として3億5300万ドルを支払うことになります。
タワーセミコンダクターは国内では富山県に旧パナソニックの半導体工場を持つタワーパートナーズセミコンダクターの株式を51%持っています。そのためインテルが買収後はインテルが国内で工場を持つとみられていましたが、実現されない形となりました。米中間の対立によって中国当局の承認が得られなかったためと言われています。
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インテル:プレスリリース(8/16)
旭化成、4インチ窒化アルミニウム単結晶基板製造に世界で初めて成功
旭化成は8/22、同社の子会社である米国Crystal IS, Inc.が4インチの窒化アルミニウム(AlN)単結晶基板の製造に世界で初めて(同社調べ)成功したと発表しました。
Crystal ISは、1997年に設立されたAlN基板を開発するスタートアップで、現在は2インチ基板を使ってUV-C(深紫外線) LEDを製造・販売しています。Crystal IS社のAlN基板には欠陥密度が低く、紫外線透過性が高く、不純物濃度が低いという特徴を持っています。
AlN基板の製造には2000℃以上となる昇華炉内部において精緻な温度コントロールが必要であり、これが基板の大口径化に最も難しい課題でした。Crystal IS社は1997年の創業以来、本分野のノウハウを蓄積し続けており、今回の4インチ化を実現したとしています。 製造に成功した4インチ基板はその面積の80%以上が使用可能ですが、2023年度中に使用可能領域を99%以上とすることを目指してさらなる改善を進める予定です。
AlNは材料としてSiCやGaN、酸化ガリウムを超えるポテンシャルを持っています。次世代のパワーデバイス適用やRFアプリケーションへの展開が期待されていますので、今後の進展に注目です。
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旭化成:プレスリリース(8/22)
福岡県、福岡半導体リスキリングセンターを開設
福岡県は8/23、半導体分野やデジタル産業分野の人材育成拠点である福岡半導体リスキリングセンターを福岡県産業・科学技術振興財団の施設内に開所しました。 センター長には黒田忠広 東京大学教授が就任しています。
半導体を作る側だけでなく、半導体を使う側にも着目した講座を整備中であり、、半導体のことを初歩から学べる講座から高度な技術を習得する講座、業界の最新動向や注目の技術等のセミナーを対面形式やリモート形式で提供するとしています。
e-learning講座も準備されており、1講座当たり1万円代から3万円程度で受講が可能です。
従来、半導体については学ぶ場は大学の電気電子系学部や関連企業内の教育など非常に限定的でした。そのためこうした開かれた拠点ができることは有意義だと思います。個人的にも勉強したい分野を受講してみたいと思いますので、今後内容を拡充してもらいたいです。
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福岡半導体リスキリングセンター:ホームページ
三菱電機、福山工場に300mmパワー半導体製造ラインを設置
三菱電機は8/29、パワー半導体の製造(ウエハプロセス工程)を行うパワーデバイス製作所 福山工場に、同社として初となるSiの300mm(12インチ)ウエハ対応の生産ラインを設置したと発表しました。
加えてこの生産ラインで製造したウエハを用いたパワー半導体チップを試作、評価した結果、設計どおりの性能が得られたことを確認したとしています。 同社では、Siパワー半導体のウエハプロセス工程における生産能力を2025年度に2020年度比で約2倍に増強するため、福山工場の300mmウエハ対応の生産ラインを既に公表している通り2024年度から量産開始する見込みです。
福山工場は2020年に三菱電機がシャープから買った工場で、2021年11月から稼働しています。
欧州企業が先行しているパワー半導体の300mmウエハ化ですが、ここにきて日本勢もようやく量産が見えてきた模様です。とは言え先行している企業とは大きな差が開いていると思われますので、今後の増強を含めて継続的に投資し少しでも差を縮めてほしいものです。
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三菱電機:プレスリリース(8/29)